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光の当たる場所で 3話
第3章:選んだのは「傍観者」じゃない道
翌朝、教室に入ると、空気がよどんでいた。
ユウトの席は空っぽ。誰も何も言わない。
まるで「いないこと」が当たり前かのように、クラスはいつも通りに振る舞っていた。
だけど俺の心は、違っていた。
昨夜、ユウトから返事が来た。
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From:ユウト
《……見てたんだ。そっか。ありがと。
でも、もういいよ。俺が我慢すれば、それで済むから》
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その文章を見たとき、胸がざわついた。
「我慢すればいい」なんて、おかしいだろ。
1限が終わったあと、俺は保健室に行った。
案の定、ユウトはベッドで丸くなっていた。
「……佐倉」
声をかけると、ユウトは一瞬、びくっと身体をこわばらせた。
それでも、ゆっくりと顔を上げた。
「……高道、くん?」
「……あのさ、昨日、ほんとごめん。俺、止められたのに、何もできなかった」
ユウトは少しだけ笑ったような顔をした。どこか、あきらめたような目だった。
「もう慣れたから。別に、誰にも期待してないし」
「でも俺は、期待されてもいい。……見てるだけ、もうやめたくてさ」
その言葉が、ちゃんと伝わったかどうかはわからない。
けどユウトはほんの少しだけ、視線を落としながら言った。
「……じゃあ、昼、一緒に飯食ってくれる?」
俺は、うなずいた。
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昼休み、教室の一番後ろの席で、俺たちは一緒に弁当を食べた。
誰がどう見てるかなんて、どうでもよかった。
けれど——予想通り、黙ってはいないヤツらがいた。
「おーい、タカミチぃ? なんでよりによって、そいつと一緒に飯食ってんの?」
榊リョウが、ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
取り巻きが後ろに2人、嫌な空気を引き連れている。
俺は箸を止めずに言った。
「……俺の昼飯の相手、指図される筋合いないけど?」
教室の空気が一瞬で凍る。
誰も笑わない。けれど、全員が「え、マジか」という顔をしていた。
榊の顔が、わずかに引きつる。
「……は? なにそれ。お前、いつからそっち側の人間になったの?」
「“そっち側”とかじゃねーし。お前の言う“こっち側”がくだらなすぎて、もういいやってだけ」
「……あ?」
榊が机を蹴った。その音に、ユウトがびくっと肩を震わせる。
俺はゆっくり立ち上がった。
「やめとけ、榊。ここで何かしたら、先生にも、ネットにもバレるぞ」
俺のスマホが、ポケットにあるのをわざと見せた。
「録音中」の画面をチラ見せしただけで、榊の顔色がほんの少しだけ曇った。
「……チッ、つまんねーの」
そう吐き捨てて、榊たちは引き下がった。
けど、その背中には、これまでのような余裕はなかった。
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昼休みのあと。ユウトがぽつりと言った。
「……ありがと。でも、あんなのに逆らったら、お前が今度はやられるかも」
「別にいい。俺、もう傍観者やめたから」
ユウトが少しだけ、目を見開いた。
そして、初めて、ちゃんと笑った。