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Ep.5 波紋
湖水で一番賑やかなのは最南端の湖水市場。二番目に賑やかなのが地図上で市場のすぐ上に位置するここ、南繁華街だ。
湖水は海を使った流通で発展した街。必然的に海がある南に物が集まりやすく、人が寄せられる。その為、北の方に行くにつれて住宅街、農耕の地域へと移り変わり、その最北部に我々宵宮の拠点があるわけだが。そのせいで起こる面倒ごとが一つ。
「北と南じゃ遠すぎて、常に監視が出来んのよな」
南繁華街と書かれた大きなアーチの下に並ぶ。三階建てほどの建物に囲まれた長い通路は、平日の昼だというのに、多くの人々が行きかっている。見るだけで人酔いしそう。
「いつもは警察に巡回任せてんだろ?なんか今日はいねぇみたいだけど」
きょろきょろと帽子の鍔を上げながら見回す日葵。無駄に目立つその頭を押し付けながら、日向が忌々しそうに眉をしかめた。
「治安が悪いところに自ら行く奴がどこにおんねん。警察ってのは、自分の身の安全は完璧に確保したまま正義を執行するお仕事やぞ」
「なんかその言い方嫌味っぽいぜ?」
「嫌味以外に何があるんや。協力関係を築いとっても、大体の尻拭いは全部うちらがやっとるんやからな。いい迷惑やぞ」
ふんすと鼻を鳴らすその姿に影がため息をつく。
「・・・早く」
ごもっとも。こんなところで道草食ってる場合じゃない。
「家帰りたいから早く行くぞ」
「「この出不精どもめ!」」
「何が悪い」
出不精程この世で快適な生活を送ってる奴はいないぞ。家の中でごろごろしてりゃ一日が終わるんだからな。ああ、なんと素晴らしいことか。
俺と影を先頭にして、人の合間を縫いながらゆっくりと歩いていく。
見た目は普通の商店街。飲食店に洋服店、靴屋に薬局、本屋に百均、そして開店準備中の夜の店。ここに来たら大体の物は手に入る。
「あ、下着屋」
「このスケベ兄貴が!」
後ろの馬鹿二人は置いといて。
「ここか、資料の場所」
「・・・うん。ここの、裏。50番の監視カメラの死角」
・・・唯一、あの沢山の写真の中で、真昼間に薬物の取引が行われていた場所だ。
今日ここに来たのは、昼は安全か確認しに来たんじゃない。《《昼も危険なのは当たり前》》。もう既に、南繁華街はただの盛況な場所ではすまなくなっている。
「写真に写っていたのは若い男女が二人ずつ。どちらも、目に見えるぐらいに顔がイカれてた」
クスリに狂った顔。変に笑って、目がガンギマってて。手に持っているのはクスリのアルミ。
「表はただの焼き肉屋だな。今は開店準備中か」
・・・チェーン店ではない。そして、店の系列は・・・
「・・・|暁《あかつき》」
影が呟くように、空気にそっと言葉をのせた。余韻が解け消えた頃、いつの間にやってきたのかわからない牧之段兄弟が俺たちの両側から通路に顔をのぞかせる。
「お、ここか。お前らが言ってたの」
「辛気臭いとこやなぁ。どうする、入るんか」
「・・・潮」
「ああ」
どうやら、事態はかなり深刻らしい。だって、
「・・・おい潮、まさか」
「まさかだよな。事の問題が、身内だなんてさ」
特別指定団体、宵宮組。現在協力関係にあるのは二団体。協力関係にある証として、誰か一人を宵宮に派遣する必要がある。
そのうちの一つ、三大財閥『暁』。宵宮との関係は十年以上にもなる。故に、幼少期から宵宮へと『厄介払い』された者がいる。
それが、俺。|暁潮《あかつきうしお》。
「・・・十分か。現場の視察は」
「・・・うん。これからの目途も立った。・・・潮、」
これから、俺はどうなるのか。
「・・・潮は絶対、俺の隣だからね」
「・・・おう」
・・・散々だ。
眩しい黄色がテンション高く腕を振り上げて、満面の笑顔を振りまいた。
「ほらみんな!取り合えず帰ろうぜ!今は目の前見ることしか出来ねぇんだからさ!」
いつもなら眩しすぎてうざったいと思えるその笑顔に、何も思うことができなかった。
暁の呪いを知ってるかい?