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【001】図書室のマスク男①
水鳴
ぼくは、大人だ。それは、当然のことだ。
もう小学六年生。
子どもじみた〝ウワサ〟なんか、僕は信じない。もう小学五年生なのに、信じるやつは、どうかしてる。
「ねぇねぇ、『図書室のマスク男』、また出たって! 二組の|夏荻《なつおぎ》くんが見たんだって!」
ガラガラと音を立てて、|西《にし》くんが教室の黒板側のドアを開けて入ってきた。西くんの大きな声にみんなが顔をむける。
ぼくたちの六年三組の教室の、みんなが西くんを見てる。ぼくも、そうした。
教卓の前まで西くんが、早足で歩く。それから興奮したように話しはじめた。
「やっぱり土曜の4時44分44秒に出たらしいぞ! 緑のコートで白いマスクで!」
それを聞いて、僕は、ばかばかしいと思った。
4がならんだ時間は不吉だというけど、だって午後の4時は16時だ。
16時44分44秒にするだけで、とたんに怖くなくなる。
「夏荻くんが見たんなら、本当じゃない?」
「だよね。児童会長で、あんなに頭もいいし」
「土曜日もたしかスポ少あったから、学校にいたんでしょう?」
「きっとそうだよ。体育倉庫のカギを職員室に返しに行ったんじゃない?」
「図書館は職員室がある向かいの校舎の二階だから、よく見えるもんね!」
教室中が一気にさわがしくなった。
くだらないと思っていても、ぼくは言わない。
自分の考えをおしつけるのは、空気が読めない〝子ども〟がすることだ。
「じゃんけんで負けたやつが、たしかめに行くことにしないか? 三組の男子のコケンだ」
お調子者の西くんが言うと、多くの男子が目をキラキラさせた。
西くんの声に、男子のみんなが教卓の前へとあつまっていく。
ぼくもそうした。そうしなかったら、〝へん〟に思われるから。
「最初はぐー。じゃんけんぽん」
西くんがしきり、じゃんけんがはじまる。
総当たりせんで、みんなとじゃんけんをした。
大人数だったから時間がかかったけど、じゃんけんはぶじに、休み時間の内に終わった
「……土曜日だね。明日だ。たしかめてくる」
負けたのは、ぼくだった。ぼくは、ただのウワサなのに、見にいくなんてばかみたいだと思ったけど、笑ってみせた。
みんなが楽しそうにぼくを見ている。
こうしてぼくは、図書室のマスク男のウワサをたしかめに行くことになった。
どうせ、いるわけないのに。